2016年10月09日
ダイアログ・イン・ザ・ダークを体験してきました
こんにちは、ヨギーのしちです。以前から、私の周りの友人の間で話題となっていた暗闇のソーシャルエンターテインメント「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」(dialog in the dark)を体験してきました。
「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」とは、「参加者は完全に光を遮断した空間の中へ、グループを組んで入り、暗闇のエキスパートである視覚障がい者のアテンドにより、中を探検し、様々なシーンを体験します。その過程で視覚以外の様々な感覚の可能性と心地よさに気づき、コミュニケーションの大切さ、人のあたたかさなどを思い出します。」--ダイアログ・イン・ザ・ダークHPより
実は、私は以前、京都・清水寺の「胎内めぐり」をしたときに、ほんのわずか数分なのに、自分の姿もなにも見えない真っ暗闇があまりに怖くて、入ったことを後悔したほどの怖がりなのです。そのときは、左側にある太い綱のようなものを握ったまま進んでいくのですが、体験したことのない漆黒の暗闇に恐怖を覚えました。いつまで続くのか、本当に出れるのか、観光客だけでぎゅうぎゅうに歩いたあの時間の長かったこと。それが、「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」は90分だというのです。だいじょうぶなのでしょうか?
ウェブから申し込んだときも、当日も、本当に自分がこなせるのか、とっても不安でした。
会場は、外苑西通りに面したコンクリート打ちっぱなしのかっこいいビルの地下にあります。受付を済ませ、荷物をロッカーに入れて、時間が来るのを待ちます。光るものは身に着けてはいけない、とのこと。スマホもデジタル時計も置いていくことになります。もしや、とこの日私は、真っ白なワンピースを着て臨みました。
15:20の回の方~と呼ばれて集まると、20代の男女が二組、30代くらいの女性がひとり参加。あと私と友人。
ダイアログインザダークの日本だけは特別に四季ごとにテーマを変えていいそうで、いまは、秋バージョン。芸術の秋ということで額縁を抜けて、薄暗い部屋に入り、みんなで輪になるように立ちます。
暗闇のエキスパートである、視覚障害者の"アテンド"の女性が一人で案内をしてくれました。
まず、白杖という杖を選びます。持っておへそと胸の間の高さにくるくらいのものがいいそうです。使い方は、あくまで床の状態を知るよう、とんとんしたり、自分の前方の様子を知るために、斜め先の下を探るよう左右に動かす。
声をだすことが大切です、と言われました。そうなんだ、とは思いながらも、それを心底実感するのは真っ暗闇になってからのこと。
次にさらに暗い部屋に案内されます。アテンドの方が話しながら、徐々に暗闇に慣れるよう、灯りを消していきます。非常灯の赤い光だけしかありません。
その瞬間、真っ暗闇ながら、なにかもにゃもにゃして見えている、でも、これから長い時間この状態に耐えられるだろうか?と、清水寺の「胎内めぐり」の恐怖を思い出し、とっさに「こわい。無理かも知れない。」と口走ってしまいました。すると、アテンドのかなさんが、「いますぐそちらに行きます」と、私の不安を察してすぐ傍に来てくれました。
そして、手をしっかりと握ってくれ、どうします? いますぐ出ますか? それとも、もう少し様子を見てみますか? と問われました。かなさんの存在がとても心強く、手の温かみに安心感を得て、このままやってみます、と答えていました。
自己紹介タイムで、顔のわからない暗闇で、初対面のみなさんの声を聞きながら、少しずつ、緊張が解けていきました。声をだすことの大切さを実感しました。みんながいるなら、頑張れるかも?と思えました。みんながどの辺りにいるのかを掴めてきました。
さあ、次の部屋に行きますよ。その段階ではまだ私はかなさんの手をしっかり握ったままでした。扉をあけて、入ったら右へ、と、案内するかなさん。私は、一緒に扉を抑えて、みなさんが通り過ぎるのを待ちました。
白杖で床の感触を探ると、じゅうたんのような柔らかさから、もっと不安定なデコボコの床に変わったのがわかりました。ここが広いのか、狭いのかがわかりません。匂いで笹のような葉っぱがあるのを感じました。
かなさんのガイドの元、ここはどんなものがある?とみんなで感じたままを口に出していきます。
じゃあ、次の場所へ移動しますよ、トンネルを抜けます、と言われました。かなさんに、トンネルの入り口を示されて、私が案内役をします。「しちです、私の前を通って左側に、肩の高さぐらいのトンネルがあります。」をずっーと連呼してました。
みんな、どこ? こっち? 迷わないようにひたすら自分の居場所を目印に出来るよう、声を出し続けました。
トンネルを抜けるとき、かなさんが、私が先の方がいいですか? それとも先に行きますか?と私に聞いたので、先に行ってみます。と、私はやっと独り立ちを果たしました。白杖を前方斜めに探りながら、トンネルの壁を触れながら前に進みました。
抜けたかな?というのがなんとなくわかり、かなさんがガイドします。テーブルがある、矢印がある、みんなの声を頼りに自分も確認しながら触りに行きます。壁、テーブル、人、とにかく何かに触れられたとき、安堵の気持ちが溢れてきました。
その後、アテンドの方のガイドに従い、先を行くみなさんの声を頼りに進みました。
何かに触れるときは、手のひらではなく、手の甲のほうが安全ですよ、と教えられていたのですが、ついつい手のひらで何かに触れ、自分の前にいた人に何度もぽんぽん触れては、「誰ですか?」「ヒデキです」を何度も繰り返し、しまいには、「肩捕まってていいですよ」と言ってくれて、そのまま肩に手を置かせてもらいながら歩きました。
調子に乗って、用がなくても「ヒデキ~」と叫びながら、みんなでその度に笑いながら、「言いたいだけでしょう!」と突っ込まれながら、歩いていました。
さて、カフェでお茶する時間になりました。探りながら席に着きました。メニューを出しますね!と言われて、トレイが出されます。ビンやペットボトル、コーヒー豆などがあるのがわかり、メニューをみんなであてていきました。
コーヒーのいい香りがします。アテンドのかなさんは、右利きですか?左利きですか?と聞いてくれて、右利きです、と答えると、カップの持ち手を右にしてサーブしてくれました。
隣り合った人たちと乾杯しようとしますが、空中はさすがに難しいと思い、テーブルの上をカップをそぉーっとスライドさせます。触れたときのかちっという感触がうれしく感じました。
最初飲むときは、なかなかたどり着けません。何度かこのくらいかな?と探りながらやっとコーヒーが唇に触れました。
さて、お会計となりました。コーヒー代の400円を全て百円玉で出そうとしますが、頼りになるのは指先の感覚だけ。500円玉もあったのですが、どうしてもトライしたい気持ちがあって。10円玉との区別に時間を要しましたが、最後、確信を持って払ったら、確かに400円です、と言われて、嬉しかった。
中には、500円玉と100円玉の区別もつきづらいという声もありました。ふと、お金をテーブルの上に落としたら、誰かが、「あ、一円玉落ちた!」と。拾うと確かに一円玉でした。みんな、感覚が鋭くなってきていました。
最後に柔らかい光がある部屋で過ごし、目を慣らし、普通の明かりの中に戻りました。一緒にまわったみんなの顔を見ると、なんだかとても不思議な気持ちと、よそよそしい気持ちになりました。
アテンドのかなさんが、薄暗がりのなかでみんなでいろんな素材で作った地図を持ってきてくれました。テーブルに置いてくれたそれを、触れられるようにガイドしたり、アンケートを集めるかなさんに、わかるように示したり、立場が逆転していることに、淋しさを感じました。
真っ暗闇のなかには、私がこれまで知らなかった豊かさがありました。声の響きで知る方向、床の感触の変化、なにかに触れたときの安堵感。空気の温度、空間に漂う雰囲気、におい。いろんなものが手がかりとなります。
真っ暗闇のなかで、自由に動きまわり、私たちを誘導してくれたアテンドの方の頼りがいと、思いやりに満ちたガイド。この心強さを、私は誰かに与えることができるだろうか?と思いました。
この日の参加者のうち、2度目の人、3度目の人がいました。二人とも男性でした。最初は不思議だったのですが、「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」を体験した感覚は、やがて日常のなかで薄れていってしまうでしょう。また立ち戻りたい、と思ったときに、確かめたくなるのかもしれません。
ちなみに当たり前ですが、白い服を着てようとも、白い杖も、まったく見えませんでした。最後に参加した友人とともに記念撮影。
ダイアログ・イン・ザ・ダーク HP //www.dialoginthedark.com/